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JR西トラブルから知る意識変革!【マインドセット・イノベーション・コーポレート・コーチング】

JR西日本は2018年2月1日に、2018年度から5年間の安全対策の指針「鉄道安全考動計画」を発表しました。
2005年4月に起きた福知山線脱線事故を教訓にしてJR西日本は安全対策に関する計画を定めており、計画は5年ごとに更新しています。

しかし2017年12月11日に博多発東京行き「のぞみ34号」で、国の運輸安全委員会が新幹線初の重大インシデントと認定する問題を発生させました。
JR西日本の車掌らが30件の異音や異臭を確認したにも関わらず、名古屋駅で点検するまで3時間以上運転を続けたのです。

断面が「ロ」の字形の台車枠(鋼鉄製)は底面から両側面にかけて計約44センチの亀裂が生じ、上部約3センチしか残っていませんでした。
記者会見したJR西日本の吉江則彦副社長(当時)は「そのまま走行していたら破断し、脱線などの大事故になった可能性が高い」との見解を示しました。

マスメディアは、「福知山事故と同じ体質が続いている」「教訓が生かされていない」などの声(意見)を数多く伝えられています。

JR西日本のホームページでは、以下のような「ふり返り」が掲載されています。
(http://www.westjr.co.jp/press/article/2018/02/page_11807.html)

当社は福知山線列車事故の反省を踏まえ、「安全性向上計画」「安全基本計画」「安全考動計画2017」を策定し、安全性の向上に向け取り組みを進めてきました。  
これらの計画を引き継ぎ、2018年度から新たな安全に関する5カ年計画である「JR西日本グループ鉄道安全考動計画2022」をスタートさせます。

「安全を維持する鉄道システム」については、ハード面では、保安装置の整備による運転事故対策、耐震補強などの自然災害対策、ホーム・踏切の安全対策を進めてきました。

ソフト面では安全確保に向けたルールの整備、実践的な教育を進めてきました。
「組織全体で安全を確保する仕組み」については、鉄道運行にかかわるリスクを予測し事前に対処するリスクアセスメントの導入、安全管理体制に対する第三者評価の導入などを進めてきました。

「一人ひとりの安全考動」については、安全に関する情報の報告、安全・安定輸送を実現するための弛まぬ努力などに取り組んできました。

「安全最優先の風土」については、安全研究所の研究成果を活用したヒューマンファクターの理解の浸透を図るとともに、福知山線列車事故を心に刻む研修を継続してきました。

実際、JR西日本は安全対策のために多くの努力をしたことは確かだと思います。

予算を増額して、新型自動列車停止装置(ATS―P)などを設置しました。
また業務ルールを改善し、教育制度も改定したようです。
そして日本の鉄道ではじめてリスクアセスメント制度を導入し、トラブルデータベースを整備し、データを社員で共有化したことも評価されるでしょう。

しかし、JR西日本が記者会見で認めているように「遅延に対する恐れ」が現場に強いストレスを与えています。

吉江副社長が記者会見で「台車への亀裂の発生は想定外だった」と述べているように、トラブルに「想定外」はつきものです。
マニュアルを整備するだけでは対応に限界があります。

品質問題やコンプライアンス違反問題を発生された企業は、
 ・IT化、ハードウェアを刷新し
 ・業務プロセスを変更すると同時に、教育を実施し
 ・組織を変更して対策を強化
します。

これらの対策は非常に重要ですが、これらで問題が解決できるとは限りません。
(これらの対策は外部に対して「会社が変わっていること」が示すことに好都合です。)

場合によっては、せっかくの改善への努力も「魂が籠もる」ことなく、形骸化してしまう可能性があります。

その理由のひとつはセクショナリズム(縄張り意識)です。
会社が大きく成長するとセクショナリズムが発生します。
JR西日本ほどの大企業となれば、縦割りの組織の弊害が出ることは当たり前です。

縦割りの組織の何が弊害なのでしょうか?
それぞれの組織(部門)はミッション(使命)を持っているため、その達成を最優先し、それ以外が意識されなくなるのです。
すると局所最適が進み、全体最適化ができません

たとえば、JR西日本の福知山線ではダイヤ改正のたび所要時間を短縮化が進んだにも関わらず、ATS(自動列車停止装置)の導入は先延ばしを繰り返しました。

それぞれの対策を推進する部門・担当者にとっては「自分の見える範囲で合理的な判断」だったのかもしれません。
しかし、総合的に見るとこの判断には疑問が残ります。

JR西日本は厳しいトップダウン型の文化(上意下達文化)があると批判されてきました。
そして、部下や同僚がミスをすると責められ組織文化があると言うのです。

業務プロセスや設備に不備があっても、個人の能力不足・やる気不足として処理される傾向があると言うのです。(https://style.nikkei.com/article/DGXLZO85985810S5A420C1CC1000?channel=DF130120166126&style=1&)

心理学ではこの現象を「根本的な帰属の誤り」と呼んでいます。
多くの会社・組織で見ることができる現象です。

「根本的な帰属の誤り」が起こると特定個人の責任追求が対策となるため、本質的な改善が進みません。
結果として、「同じような誤り」が繰り返されるのです。

一部では(http://abc1008.com/news/onair/070420.html)

会社側は『安全性向上計画でお金も付けます、色々な設備も整えます、けど逆に要員効率は別ですよ』と言うんです。
だから、毎年『より効率化』ということで(人が)減らされていながら、今の安全性向上計画で決められたこともやらなくてはいけない。

また、JR西日本で実施されている経営幹部と現場との「安全ミーティング」についても

「当初は、かなり会社の中でも上部の方が、社長とかそれに近いような人がされていたようですけど、いつ頃からか、運転職場に支社の施設担当課長とかが来て、 こちらが色々な質問をしても、『こちらでは良くわかりません』というようなことを言われたり、『これからは、会社に対して、要望とか意見を言うのではなくて、 安全性向上計画に沿って、あなたが何をするべきなのかを明らかにする場所ですよ』という形で、安全ミーティングが変質されてきている。

と言う声も聞こえます。

企業は複数の目的を持っています。
鉄道会社にとっては
  安全
  利益
  定時運行
のどれもが大切な目標です。

だからこそこれら目標の関連性を明確にし、常にふさわしい対応ができることが必要です。
そうしなければ、利益や定時運行のような日々追求される目標達成のために「安全」がないがしろにされてしまいます。
(「ダイヤの乱れにキレる乗客対応」を現場の社員の力量に任せていては、現場は冷静な判断もできなくなってしまうかもしれません)

自分の作業が会社全体にどのように貢献しているのか、それは会社でどのように評価されているのかをリアルに実感できるからこそ努力や創意工夫ができます

そのためにも「風通しの良い職場」「安心して意見・気づきを口に出来る職場」作りは重要です。
そして、個別の課題と全体最適化の関係を常に現場や経営幹部にフィードバックすることです。
自分たちの作業と会社全体の動きが分かりやすく理解できることが会社や仕事に対する「誇り」を持つためには必要です。
「誇り」が持てる仕事だからこそ頑張ることができるのです。

JR西日本で起きている問題は特殊な事例ではありません。
私たちの日常に深く関係するテーマなのです。

うつみ まさき コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
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