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会社・職場を良くするコーチング:これから品質劣化で被害者が激増する時代?!

日本の主力産業は製造業です。 「ものづくりの国」として製造業が成長することで、日本経済・社会は発展してきました。

一方で、今年(2017年)は神戸製鋼所や日産自動車、三菱マテリアル、東レの子会社などの品質管理の不正が次々と発覚した年でした。 

また今年の12月11日に、博多発東京行きの「のぞみ34号」で異音・焦げ臭い異臭などが発生し、名古屋駅で運転打ち切りとなりました。 運輸安全委員会は12日、今回のトラブルを新幹線としては初めてとなる「重大インシデント」に認定しました。 重大インシデントとは、飛行機と鉄道で「事故にはならなかったが、深刻に危険だった事件」です。 製造業でよく耳にする「ヒヤリ・ハット」の中でも危険性が深刻なものです。 まだ原因究明がされていませんが、列車の運行方法・手順も含めて異次元の品質問題です。

日本を代表する製造業である自動車のリコールに関しては、国土交通省への届けで件数はこの10年間は年間約300件以上で高止まりしています。 減少する様子はありません。

設計・製造過程の品質問題ではありませんが12月16日午後6時35分頃に福岡市のJR鹿児島線箱崎―千早駅間の線路上で、レールの凍結を防ぐための作業をしていたJR貨物九州支社の50歳代の男性社員が普通列車にはねられて不幸なことに死亡しています。 線路の保安作業は安全を最優先して行われる作業であるにも関わらず、死亡事故が発生したのです。

日本の製造業において、品質・安全・信頼が劣化しているのではないか、または多くの会社の中で品質・安全・信頼が軽視されているのではないかと不安になるニュースが続いています。 もちろん成長を抑圧する過剰な品質は不要です。 しかし、適切な品質レベルとは何なのかが多くの会社で不明確になりつつあるのではないでしょうか?

多くのみなさんが考えているように、多くの会社では利益を上げるためにコスト削減や納期短縮が最重要課題になっています。 その結果として品質や信頼性・安全性にしわ寄せが来ています。 品質・信頼・安全を保障する活動コストは「保険」のようなものです。 事故が起こらないための活動です。 と言うことは、「まだ事故が発生していない段階」でのコストです。 コスト削減をする立場の人の中には、「事故が起きていないのだから省略しても良いのではないか」と本気で考える人もいるかもしれません。 コスト削減を「未来に向けた保険」よりも大切な、今まさにやらなければならない優先度の高い仕事だと信じているのです。 これは生活者向けの製品でも、重要な社会インフラシステムでも、サービス業でも同様です。 会社が短期で利益を上げることをもっとも重要視する社会だからです。

経営幹部やマネージャーから具体的なコスト削減の数値目標を提示・指示された現場は当然大きな影響を受けるでしょう。 特に、「人に依存した仕事の仕方」で成り立っている職場であるにも関わらずノウハウを持った人材が外注の場合に、外注を単に人員削減してしまうと取り返しがつきません。

品質・安全・信頼の重要さを経営幹部や管理職に理解してもらうために、定量的なデータを用いて説明することが重要であると言われています。 全くその通りです。 定量的なデータをもとにしてグラフ・図などを用いて説明すれば、専門的な知識を持たない部外者にも現状を理解しやすいのです。
ただ、「難しい仕事をやり抜くことが現場の仕事です」と突き放されてしまう可能性もあります。 コストダウンを推進する人たちは「ない袖は振れない」と言う立場を堅持するかもしれないからです。 

「現場の声を経営者に届ける」と言うスローガンは魅力的ですが、現実には簡単なことではありません。 リスク相談ホットラインなどを開設している会社もありますが、経営者やマネージャーを信用できないと従業員が考えればホットラインが活用されることもほとんどありません。

品質・安全・信頼の重要性を真に理解してもらうために、ひとつのポイントは「機会損失リスク」をどのように関係者がリアリティを持って認識するかです。 論理的・合理的に理解する、つまり「頭だけが分かっている」状態では切羽詰まっているコスト削減第一主義の現実を変えることができません。 (自分の目の前に具体的なコスト削減指示が存在するのです。) 被害者・被害を被った顧客の悲しい・苦しい表情がイメージ出来なければなりません。 それがなければイノベーションが起こりません。

たとえば不幸な事故が起こった際に、その現場やその被害者と接した人たちの多くは考え方を改めます(リアリティ感覚が変わります)。 その人にとっての現状認識・認知が変わるからです。 逆にリアリティが持てなければ、表面的な謝罪などをしてもしばらくすれば「もとに戻ります」。 自分たちを正当化しようとする意識の力はそれほどまでに強いのです。 

リアリティを高めるためには、たとえば部門横断で問題に対するグループディスカッションを繰り返すことは効果的・生産的です。 上手に設計・運営されたグループディスカッションは本音を聞き・語りながら今までの考え方を変えるきっかけを作ります。 継続的なディスカッションで視野を広げ、価値観を成長させることは人材育成の基本なのです。

なお、自分自身の仕事に対する責任感をどのように持つかは品質・安全・信頼の課題とは独立して社会人として重要です。 「どうせあと数年すれば私はここの責任者ではなくなる。異動のあとで事故があったとしても対策するのは私ではない」と多くのマネージャーが考える組織では場当たり的なマネジメントが横行します。 個人も会社も成長することは難しいでしょう。 

これからの時代は、人材を育成することで会社が生き残るのです。

うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
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