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本田宗一郎さんと「東芝のチャレンジ」は何が違うのか?【イノベーション、マインドセット、コーポレート・コーチング】

昭和の日本には時代を象徴する名経営者が存在しました。
たとえば、製造業では本田宗一郎さんは代表的な経営者のひとりです。
本田宗一郎さんの場合には、ご自身が技術者ないしは職人であったことが特徴的です。

時に非常に激しく部下を叱ったことでも有名です。
「かくかくしかじかだから」と説明するのではなく、時には試作品の部品をへし折って意図(怒り)を部下に伝えたそうです。(https://shuchi.php.co.jp/management/detail/4686?)
「オヤジが怒ると本当に怖かった」と当時の社員は語っています。

ある意味では、社員をとことん追い詰めた経営者です。

そして、現代でも激しく部下を叱責する経営者や管理職は珍しくありません。
中小企業から大企業まで、激高タイプのリーダーはまだ驚くほど多いと思います。

たとえば、不正会計や巨額の負債で話題になった東芝でも「チャレンジ」と言う形で厳しい指示があったと報道されています。

東芝崩壊の戦犯と呼ばれる3人(西室泰三さん、西田厚聰さん、佐々木則夫さん)の中でも西田さんと佐々木さんの激しさはテレビのワイドショー番組で格好のネタとして取り上げられるほどでした。

一方で彼らの東芝の社長時代、その経営手腕を高く評価した報道も多かったことは事実です。
社内にも彼らの信者がいたと言われています。

たとえば、西室さんは当時としては珍しい国際派リーダーでした。
ソニーの出井伸之さんとともに、マスメディアからも注目された人物です。

西田さんはパソコン事業の出身ながら、エネルギー分野の会合でも存在感を示したと言われ、まさに新しい時代のカリスマ経営者として注目を集めました。

もちろん、社内に多くの敵を作ったことは事実でしょう。

では、本田宗一郎さんと戦犯たちは何が違ったのでしょうか?
今回はあえてリーダーの人柄ではなく、メーカーの技術者が置かれている社内環境の違いに注目したいと思います。(人柄についてはすでに多くの解説がされています。市場環境の違いについては、場を改めたいと考えます。)

違いのひとつ目は、技術の高度化と複雑化です。
たとえば、NANDに代表されるメモリの開発については「量子力学の限界への挑戦」と言われるレベルに達しています。
そして、そのメモリの応用製品であるSSDを動作させるフェームウェアは数人~十数人で開発する「ファームウェア」と言うイメージを遙かに超えた大きさになっています。
それらを限られたコストと決まった納期で作るために、多くの技術者はゆとりを失っています。

ふたつ目は技術者が担当する付帯業務・管理業務が急激に増えていることです。
コンプライアンスの強化などの必要性からメーカー技術者が付帯業務や管理業務などに忙殺され、実際の技術活動に携わる時間が制約されてしまうのです。
結果的に外注依存度が増加し、多くの会社ではメーカー技術者だけではものづくりをすることが出来なくなっています(時間的にも、能力的にも)。
これでは、何のためにメーカー(完成品)の技術者になったのか分かりません。

3つ目は、多くの職場で「上から言われたものしか作ることができない状況」になっています。
グローバルな競争の中で、技術者・研究者が創意工夫や試行錯誤をするゆとりを失いつつあります。
短期間で利益や事業貢献が求められ、観察し、深く考える「開発・設計」が出来なくなっているのです。

結果的に多くのメーカー技術者は「言われてものを作るだけで精一杯」の状態が習慣化し、新しいものに挑戦しようとする気持ちそのものを失いつつあります。
新しい価値を作り、それをマーケットに提案する気概を失いつつあります。
マーケティング的にも「とにかく顧客を見つける」ことが優先され、「技術者は客がついてから考えはじめる」ことが常態化してしまうのです。
それでは「他社(他者)の後追い」になるのも仕方がありません。

日本メーカーが海外メーカーに買収されると意志決定のスピードが上がり、上記問題のどれかが解決されるために業績がV字回復することがあります。

上記の3つの問題は真綿で首を絞めるようにメーカーの実力を奪っています。
どれも大変に深刻な問題です。

そして、特に3つ目の問題は直接的に技術者をマインドコントロールします。 現場の努力や工夫だけでは解決できません。

マインドコントロールの結果、有能な人材のイノベーションマインドがなくなり、モチベーションが下がり、創造性や生産性・品質向上が期待できなくなります。

技術者集団が一度マインドコントロールされると、それを脱洗脳することは容易ではありません。

会社も従業員・技術者も、正しく目標が設定されるからこそ「前向きに頑張る」ことができるのです。
全てはそこからはじまります。

会社や組織は何のために存在し、自分は何をしたいから仕事をするのか?
その課題を脇に置いてイノベーション論を語っても、現場に変化は起こりません。
会社を変える(変革の)原動力は、理想の未来をイメージ出来るかどうかに関わっています。

多くの記事・書籍を拝見し、本田宗一郎さんはそれができた経営者(リーダー)であったのではないかと考えています。

うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
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