システム思考とイノベーション:経営者を変えるだけでは会社は変わらない
最近、伝統ある大企業(さまざまな国でビジネスをするグローバル企業)が社会的・経営的問題(事件)を起こしています。そして、その経営基盤が危機に陥る会社も存在します。 それらの事件は「ひとりの不心得な人間が起こした問題の域」をはるかに越えており、まさに「企業の存在意義・信頼」を脅かすレベルになっています。
そのような事件では、ニュース報道を見ても「経営者の経営責任」を追求する声が高まることが分かります。 記者会見などの中継で、犯罪者を糾弾するような勢いで経営者が追求されることもあるようです。
会社の最終的な意志決定は経営者が行うものですから「経営トップ」「経営幹部」の意向が組織に最も強く影響することを考えれば、彼らの責任が最も重いことは火を見るまでもなく明らかです。 多くの場合、経営層の組織運営方針が問題を発生させる原因となっているでしょう。
ところで、それらの企業に勤める管理職や一般従業員からは「経営者がダメだからひどい目に遭っている」と言うような発言を聞くことがあります。(テレビなどでは当然個人が特定されないようにモザイク処理が施されています) 確かに、多くの管理職や一般従業員は、与えられた仕事を毎日真面目に処理していることですので責任を追及される必要はありません。 ただ、彼らは「運が悪い被害者」なのでしょうか?
企業不正とはテーマが異なりますが、ハンナ・アーレンは著書『全体主義の起源』の中でナチスドイツの反ユダヤ主義がどのように発生して行くのかを説明しています。 反ユダヤ主義はアドルフ・ヒトラーと言うカリスマ的リーダーひとりが国民(ドイツ人)を洗脳したものではなく、その時代の社会的背景の中で大衆の中に萌芽したものであると主張しています。 国民の考え方の中に「反ユダヤ主義の種」が存在したのです。 だからこそ、ナチスは民主主義的選挙制度によって政権党となることができたのです。個人の影響力を極大化する環境が社会に存在したのです。
大企業では不正が発生しないような安全装置が何重にも設置されていることが普通です(業務ルール、監査、ITシステムでの管理、他で実施されています)。また、中小企業と比較すれば社員教育なども充実しています。 極めて深刻な事態になるまで問題が悪化するのはなぜなのでしょうか?
そもそも、私たちは組織などで問題が発生するとその原因を「特定個人の問題」に帰結させやすい傾向を持っています。これは「根本的帰属の誤り」と呼ばれています。
さらに組織には、組織内だけで通用する文化・思考様式(マインドセット)が存在し、それを実行可能とする仕組み(システム)も存在します。 「建前はその通りだけれど、ウチでは昔から○○することになっているのですよ」「ヨソも似たようなことをやっていますよ」と言う本音があるため、建前と本音を(悪い意味で)上手に使い分ける習慣が身についている組織がとても多いのです。 従業員は無意識のうちにその習慣をより強化するように日々行動します。 ある意味で、マインドコントロールされています。
よって、経営者が変わったとしても悪習慣を実行させる組織のシステムが是正されなければ数年後に同様の問題が発生します。 ちなみに、企業は「ミスは良くないことだから隠す」と言う価値観を持っていることが多く、問題点は隠されてしまうために時間経過とともに「過去に問題があった事実」さえ従業員の意識・記憶から消えてしまうのです。 よって本質的な問題であるほどPDCA(plan-do-check-act)サイクルは回らなくなります。
気がついた時には自律的な是正が不可能なほど事態が深刻化しています。
では、どうすれば良いのでしょうか?
少なくとも、「自由に意見(何かおかしい)を言うことができる環境」「ミスを責めず、是正する仕組み・システムを考える」ことが必要です。 最初は「何かがヘン」としか表現できない曖昧な違和感の中に問題発見の手がかりは隠れています。 未来の目標を達成するために考え・話し合う時間が必要です。 「本当は何が起きているのか(どのようなシステムが存在するか)」を考える時間を持つことが大切なのです。 従業員に考える時間がなければ「目先の問題」に対策を打つだけで精一杯でしょう。
経営者・リーダーは従業員が目指すべき目標(会社の存在意義)を説明する責任を持っています。それがなければ、数字(利益)だけを追い求める組織になってしまいます。心から共感できる目的(存在意義)が明確だから従業員は智恵を絞ることができます。
市場変化の大きな時代ですから、将来に対する予測能力だけを頼りに事業計画を作ることには限界があります。 「価値ある目的」のために人は努力をするのです。 ルールや組織を変えるだけではなく、マインドセットを変える努力で会社は生まれ変わります。
うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
https://innovation-labo.com/
無料の個別相談をホームページから受け付けています