組織改善・成長:トップが組織を変えるため最初にやることは?
最近、伝統ある一流企業が経営危機に陥っています。優秀な人材が集まる日本を代表する組織でさえビジネスが頓挫するのは日本人として大変に残念です。
事業部門やコーチング・コンサルティング部門で長年仕事をしてきた率直な意見ですが、マーケティング能力や技術力、強力な生産システム・ITシステムの存在は成功を約束するものではなくなりました。変化が大きく、多くの人や地域が事業の成功に大きく関わる時代になったからです。インターネット、AI、新素材、そしてグローバル化が時代の変化をますます加速させることになるのは誰の目にも明らかです。「地球の裏側で蝶が羽ばたくと、日本に台風が来る」と言うバタフライ効果が社会やビジネスの世界でも現実になっています。
多くの企業や組織が未来に向けたビジョン立案に苦労していますが、ひとつだけ言えることは「どのようなビジョン達成も会社(組織)のトップ・リーダーの影響下にある」と言うことです。だからこそ、技術力をはじめとする「現場の力」だけでは生き残ることが難しいのです。(もちろん、現場の力が無力であると主張するものでは全くありません)
例えば、多くの組織トップやキーパーソンの悩みは大変に似ています。「自分の意図が伝わらない(曲解される)」、「問題が報告されない(隠される)」、「指示がいつの間にか消えてなくなる(無視される)」などは良く耳にする悩みです。そうしているうちに、多くのトップクラスの人たちは自分たちの部下やプロジェクトメンバーを信用しなくなってしまうのです。信用できなければ、権限委譲も出来ませんし、自分の頭で考える自律的な人物も育成できません。
会社・組織・職場など「場」のパフォーマンス(結果)は総合力で決まります。特定の「誰か」の能力が高いだけでは中長期間に渡りパフォーマンスを出すことは出来ません。総合力は意志決定プロセスや情報共有・コミュニケーションなどの「場のプラットフォーム」の状態に強く依存します。場のプラットフォームを成熟させるためには「信頼関係」がなければなりません。信頼できない人に本音を語ることはできないからです。本音を語ることができなければ、表面的なコミュニケーションしか出来ません。そもそも、多くの会社・組織では各メンバーが持っているゴール(目的・目標)は異なっています。組織やプロジェクトにコミットメントが存在しないのは当たり前なのです。だからこそ、信頼関係は意識的に作ることが大切です。信頼関係の起点はトップ・リーダーにあります。場のプラットフォームに最も影響するのはトップ・リーダーだからです。
では、トップ・リーダーは何からはじめれば良いでしょうか? 業務規定やプロジェクト憲章に「コミュニケーションを良くしましょう」と書くことでしょうか?もしかするとそれも意味があるかもしれませんが、最初にするべきことは「相手が大切にしていることを大切に扱うこと」です。「大切にしていること」を一致させることではなく、「大切に扱うこと」なのです。相手の価値観を尊重するのですひとりひとりのゴールが異なる以上、大切にしていること(価値を感じていること)はひとりひとり異なります。自分が大切にしていることを大切に扱ってくれるトップ・リーダーだからこそメンバーも信頼感を持ち、熱意も伝わるのです。これは、ダニエルキムの成功循環モデルとして知られているもののアプリケーションです。「場のプラットフォーム」作りはその延長線上に存在するものです。最初は「そんなことをして意味があるの?」と仰っていた方の方が効果・価値を実感されるものです。人には心があることを再認識するからでしょう。まだ、新しいリーダーシップのあり方です。
トップ・リーダーは「場のプラットフォーム」を成熟させ、ステークホルダー(利害関係者)との信頼関係を作りましょう。
うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ