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リーダーシップとマネジメント:リスク管理を成功させるために

 

システム開発のコンサルテーションをしていた際、たびたび「リスク管理」について相談をされました。

「リスク」とは予定通りの結果にならない度合いです。私は「心配事」のようなものだと説明することが多かったと思います。ですから、「問題」とは違って「リスクとはまだ実際には発生していない心配事」です。(発生していないので、目に見えません。)

システム開発のリスク管理には色々なテンプレート(帳票)や定量的な管理技術も存在するのですが、実際に多くのプロジェクトをお手伝いしていると「リスクを常に把握し、問題が起こりそうになったらすぐに行動する」と言う心構え(マインドセット)をリーダーのみなさんが持てるように支援することが重要でした。

リスク管理の考え方はシステム開発だけではなく、多くの会社・組織の仕事でも重要ですそれは、計画した通りに仕事が進捗するようなことは滅多に起こらないからです。仕事に関わる人が増えれば増えるほどリスクは数多く、そしてその影響も大きくなって行きます。 最近多くの大企業が問題を起こし、その中には事業継続が難しくなっている会社も存在します。それらの多くはリスク管理が不十分だったと言えるでしょう。

あるプロジェクトリーダーは「リスク管理を全く実行しようとしません」。それは、問題点に対策を実行することが手一杯になってしまい、とてもリスク管理まで手が回らないからです。問題が起こることが当たり前になってしまい、それを体力勝負・人海戦術で解決することが常識となっていました。(そのように問題を解決することで、自分の存在意義をアピールすることも出来たのかもしれません) 本当であれば問題が発生しないようにリスク管理をするのですが、「新しいやり方」に気持ちが乗らないのです。(心配事をエクセルシートに整理し、記録し、時々見直すだけであったとしても)

一方、あるプロジェクトリーダーはリスクとしてリストアップしたものをリスク管理表(と言う名称の帳票)に書き込み、その全てにリスクに完全な対策を取ろうとして行き詰まってしまいました。プロジェクトが進行すると次々と新しいリスクがリスクアップされるので、それら全てを完全に制御することなど出来ないことは理解しているけれど、それでも完全にリスクを回避できる対策を取ることが出来ないと納得出来なかったのです。そのようなことが実現できないことは理解しているにも関わらず、意志決定や行動が出来ないのです。

私はリスク管理について説明する時に株式投資を例として説明することがあります。

過去の株式投資の入門書の中には「株価が一番安いところ(底値)で株を買い、最も高いところ(高値)で売れば○○円の利益が出ます」と言う説明を見かけることがありました。ただ、よく考えると分かりますが現在の株価が底値なのか、高値なのかをその時点で知ることは出来ません。ですから、「最底値で買って、最高値で売る」ことは現実には出来ないのです。ところが、「もっと値段が下がるはず」「もっと値段が上がるはず」と言う気持ち(過剰な期待や不安)から売買のタイミングを逃し、損失を出す人の体験談が後を絶ちません。

つまり気持ち(=マインドセット)を成長・安定させることで、状況変化の分析や意志決定・行動ができるようになるのです

仕事でリスク管理をするためには、自分たちの「仕事(タスク)に取ってリスクとは何なのか?」「それをどのように管理するのか?」と言った技術的な側面と、安定したマインドセットを維持するマインドマネジメントの側面を両立させることが大変に重要です。

過去の人材育成体制が整っていた組織では、それらは師匠や先輩社員が若手・中堅メンバーをしっかりと理解することで支援していました。ところが、現在は組織がスリム化したためそのような育成・支援の仕組みを持っている組織は少なくなっているのが現実であると思います。しかも、市場からの要請や競合他社との競争のためコストダウンや業務スピード向上がますます求められています。もちろん、IT化や業務プロセスの整備・改善による生産性向上は必須です。そして、中長期的に目標を達成させるためにはマインドセットの向上も含めたリーダー育成が多くの会社・組織で必要な段階に来ています。

会社・組織内に技術とマインドセットをサポートする仕組みを作ることができることで、従業員も会社・組織も満足感と達成感を手にすることが可能になるのです。

 

うつみ まさき

コーポレート・コーチ

(株)イノベーション・ラボラトリ

https://innovation-labo.com/