Pocket

 

リーダーシップ:「好きなことだけをして成功する」とは何か?

最近、「自分のやりたいことだけをすることで成功しましょう」「好きなこと以外のことをしてはいけません」と言うタイプのフレーズを目にすることがあります。 それに対して、「バカじゃないの、そんなことで仕事が成功できたら苦労しない」「それは、他人に迷惑をかける人の言い訳でしょう」などの反対意見もあります。
「好きなことだけをする」をリーダーシップやコーチングではどのように考えると良いでしょうか?

以下は、あるシステム開発プロジェクトをコーポレート・コーチ/コンサルタントとしてご支援していた時のお話です。
ソフトウェア開発チームの中心メンバー矢部さん(仮名)は大変に優秀なプログラマーでした。ソフトウェア開発ではプログラマーの能力の違いによる生産性差が大きいことが知られています。 優秀なプログラマーと能力の低いプログラマーでは生産性が二桁程度異なることもあります。 プロジェクトの成功(納期までにシステムを納品する)にとって矢部さんの存在は必須です。 
ところで、プロジェクトを進める際にはプロジェクト内で決められたルールを守ることが求められます。たとえば、「○○設計書を書く」「△△ミーティングに参加する」「××については報告する」などのルールがあるのです。 しかし、矢部さんはこのルールをほとんど守らないのです。 ひたすらプログラムを書いているのです。プロジェクトマネージャーが理由を聞くと、「プログラミングが好きだから」とのこと。それ以外のことをしたくないとのことでした。 矢部さんはとても優れたプログラマーなのでプログラムを作るスピードはとても速く、バグ(不具合)もほとんどありません。しかし、プロジェクトマネージャーたちはルールを守らない矢部さんをどのように扱うかを悩んでいました。 厳しく注意をして会社を辞めてしまうようなことがあれば仕事が成り立ちません(矢部さんであれば転職先は簡単に見つかるでしょう。矢部さんにとっては就職している会社がどこかよりもプログラミングができれば環境が「幸せ」なのです)。
結果的には、プロジェクト内の別メンバーが矢部さんの尻拭いをすることでなんとか体裁を整えているのでした。
矢部さんの仕事の仕方は組織ないしはプロジェクトマネジメントの観点では問題です。業務が矢部さん個人に依存してしまい、組織的な生産性や品質の改善・向上に結びつかないからです。そして、矢部さんの尻拭いをさせられている人の成長の機会を奪うことになっているかもしれません。
さて、矢部さんの仕事の仕方は「やりたいことだけをすることで成功する」ことなのでしょうか?
そうではありません。
他人に不必要な犠牲を強いることで個人の幸せを追求することが正しいはずがありません。
矢部さんは自分自身と組織・プロジェクトの両面で思考する観点が必要だったのです。

「好きなことだけをすることで成功する」とはどういうことなのでしょうか?
少なくとも、社会的ないしは組織的な活動をする場合には次のように考えると良いでしょう。つまり、「成功」とは自分と自分以外の人たちを幸せにするだと定義すれば良いのです。 自分のことだけを考えていては「成功」することはできないのです。会社も社会も人との協調・協力・共存で成り立つからです。
会社やプロジェクト、そして顧客を含めて「幸せ」にすることが成功なのです。
その「成功」にリアリティを感じることができれば、「成功」に付随する出来事にも意味を見つけることができるはずです。意味や価値のないことには熱意を持つことができませんが、意味や価値のあることを実施することには熱意を持つことはできるはずです。ムダなことや改善するべきですが、一方的に無視をしては他人に迷惑をかけてしまうのです。
「成功」にリアリティを持つことで、全体を俯瞰し、システム思考的に考えることができれば局所最適ではなく全体最適を目指すことができます。その時は「やるべきことは、全てやりたいことに包含されるのです」。
これこそが、「好きなことだけ」をする意図です。
矢部さんのことを、会社の上司たちは「プログラムを書く道具」と認識していました。会社を支える貴重な「人」としての成長について十分な配慮が出来ていないことが問題を発生させていたのです。

目的を設定する時には、個人的な利益と社会的・組織的な利益の両面を理解することは大切です。その時には大きなモチベーションが個人にもチームにも産まれます。それが生産性を上げ、イノベーションを実現します。この時、反社会的・反組織的な行動は「好きではない」はずです。
「好きなことだけ」を追求し、是非成功を目指しましょう。

うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
https://innovation-labo.com/