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仕事の仕組みとイノベーション(変革):会社を良くする改善活動が次々失敗する理由

製造業をはじめとして多くの会社や組織の不正や不適切行為がニュースになっています。  しかし、会社・職場を良くしようとする活動(改善活動・変革活動)は長い歴史を持ち、繰り返し実施されています。 日本では「現場力の強化」のため、QC活動(品質管理活動)など製造現場での改善活動は昭和30年代から盛んでした。

製造現場からはじまった改善活動は、技術・設計部門や営業部門など対象を広げました。
1990年代からは、現場改善だけではなく全社的な改善活動が話題になります。ISO9000認証などが受注条件になるなど、ビジネスでの必要性が高まったことが背景にあります。 これらの活動を通して、経営戦略として新しい考え方であるTQM(総合的品質管理)やBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)や、新しい手法であるBSC(バランススコアカード)やビジネスモデルキャンバスが日本でも普及をはじめます。

しかし、実際には多くの職場で改善活動事務局(推進役)による現場中心の改善活動が継続されました。 つまりそれらの会社・組織ではルールなどの形式的なものは変化しても、経営幹部や上級マネージャーなどの考え方や行動原理を変わることがなかったのです。 そして競合他社との競争の中、短期間で成果を出すことを経営層から迫られた多くの現場では、1990年代後半頃から顕著に能力と倫理観が劣化していきました。

なぜ会社・組織がお金と人を投入する改善活動が次々と失敗してしまうのでしょうか?
たとえば知識集約型ビジネスの代表であるシステムインテグレーションやソフトウェア開発の現場では、ERP(統合業務パッケージ)活用やアジャイル開発手法導入などが行われました。アメリカでは大きな成果を上げているとの触れ込みでしたが、日本での成功事例は限られています。 営業現場では、SFA(営業支援システム)の活用やコールセンターとの協調による組織的な営業活動を目指す活動が数多く登場しましたが、結果的には個人的努力や人海戦術により売れ上げアップを図ろうとする動きに吸収され、生産性の向上に結びつく成功例は限られています。

改善活動・変革活動に関わる多くのコンサルタント・コーチ、改善推進担当は失敗例の中に共通する姿・光景を目にします。 (まさに、デジャブのようです。)
・経営層や上級マネージャーが何かの理由で改善活動を宣言します
 (売上げ・利益や品質に大きな問題が生じた結果です)
⇒ただし、確固たる信念・理念を持って活動開始を宣言した訳ではありません
⇒担当者が決められ、責任が丸投げされます
⇒事業部門などの負担は出来るだけ少なくしろと圧力がかかります
 (話し合いの時間や、改善・改革による変化は制約されます)
⇒すぐに成果を出せと指示が出ます
⇒担当者丸投げなので関係部門間の調整が難航します
 (関係を調整できる能力がある人の関与がありません)
⇒展開している手法・手段の実行が目的化し、実効性のある改善は進みません
⇒現場のニーズからますます乖離し、関係者の協力が得られません
⇒改善事務局が成果のアリバイ作りをし、経営層に報告します
⇒改善活動は形骸化します~そして、消滅へ

関係する全員が同じ目標に向かって行動できるように共通の理念に共感し、標準的なマネジメント方法理解し、同じように行動できるようにするためのトレーニングやサポートが必要なのですが、それが十分には実施されません。
そして、主要な関係者が具体的にイメージ出来るような新しい働き方やその御利益が提示されることはありませんし、自分たちで作ることもありません。 それらを実感できるビジョンやシナリオがなければモチベーションを上げることもできません。 マネージャークラスを含めてほとんどの人が当事者意識を持つことができないからです。
つまり、魂が籠もらないのです。 情熱を持つことができません。

改善活動・変革活動は「自分たちが良くなって行く」とイメージできることが最低限必要です。 特定の人たちだけではなく、多くの関係者が御利益に共感出来るからこそ習慣が自律的に変わるのです。(強制による変化だけでは長続きしません) それによって人の行動が変わります。 そのイメージを作ることができる人が最初の段階から活動に関わることで成功します。そうでなければ、失敗します。 それは経営者や上級マネージャーかもしれませんし、職場のキーパーソンかもしれません。組織・職場の人たちに精神的な影響力を持つ人です。 そして、不要な忖度なく話し合うことや行動することができる環境をどうすれば作ることができるかは、改善のために何を実行するかと同様に重要です。 活動は全員で学び、日々の行動をふり返りながら進むものです。
それによって、現場の担当者の視点と組織を高い抽象度から俯瞰できる人の知恵が融合します。 人が論理的に理解・判断し、情熱で行動することを実現します。
まさに改善・変革活動は人材育成なのです。

うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
https://innovation-labo.com/
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