現在、世界で最も革新的な仕事をしている会社のひとつはアメリカのGoogleです。
Googleは学歴を重視し、能力の高い人材を採用することで知られています。その意味で、米Googleは最高の頭脳が集まった組織であり、極めて合理的・論理的に意志決定し、行動する人材が集まった組織の代表です。
その米Googleのソフトウェア技術者が書いた
Google’s Ideological Echo Chamber
と言う社内向けのメモが話題になっています。
メモが書かれたのは8月3日とのことですが、8月5日にはニュースとなり、インターネット上で多くの議論が交わされるようになりました。
https://motherboard.vice.com/en_us/article/kzbm4a/employees-anti-diversity-manifesto-goes-internally-viral-at-google
http://gizmodo.com/exclusive-heres-the-full-10-page-anti-diversity-screed-1797564320
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1708/06/news034.html
「Google’s Ideological Echo Chamber」の主張を簡単にまとめると
・女性はソフトウェア技術者向きではない
・Googleは男女比率を半々にしようとしているが、それは正しくない
・しかしGoogle社内にはEcho Chamberが働いていて、自由な議論が出来ない
と言うものです。Echo Chamberとは「同じような意見の人たちが議論することで、その主張の正当性が強化される現象」です。先のアメリカ大統領選挙を例とするならば、トランプさんの支持者がトランプさんの支持者グループと会話することで「トランプさんが大統領になるべきだ」とより強く確信するようになる現象です。(異なる意見を拒絶するようになります)
アメリカでは、人種や性別での差別は厳しく批判されます。
だからこそ、「女性は技術者に向いていない」などと発言すれば激しく非難されてしまうことでしょう。「Google’s Ideological Echo Chamber」の作者はもっと自由に発言できる環境が必要だと主張しています。
これはある意味でGoogle内のあるグループの「本音」でしょう。このグループの人たちは「自分たちは正しい主張ができない被害者である」と考えているのかもしれません。
現代のアメリカ企業でこのような「偏った意見」を主張しようとする人が存在すると言うのはGoogleの中に自由な文化が存在する証拠なのかもしれません。(主張の正誤は別にして)
世界で最も合理的な人材が集まる米Googleでこの問題が発生したことが大変に興味深いです。Googleはこれからどのように問題を解決して行くのでしょうか?
どのような意見交換・議論をすれば解決するでしょうか?
アプローチは大きく分けてふたつあります。(少し単純化した記述になりますけれど)
ひとつ目は、事実を積み上げる工学的・合理的アプローチです。
ソフトウェア技術者に必要な能力や特徴は何か?
を明確に定義(記述)することで、そこに男女の差は存在するかどうかをデータを取りながら検証するアプローチです。
特に、(富士通さんでも、大塚商会さんでも、サムスンさんでもなく)Googleに必要な人材としてのソフトウェア技術者の能力や特徴を明確にしなければなりません。「ソースコードを書くことが出来れば良い」と言う単純なものでは不十分なのです。
このアプローチは工学的で、合理的に判断できるかもしれませんが大変な創意工夫・労力が必要です。また、その結果は「現代アメリカの良識」と相性が良いかが最後まで分かりません。(Googleの意志決定は社会に大きな影響を及ぼす可能性があります。)
ふたつ目のアプローチは、「Googleは性別に影響されない人事制度・チーム構成を目指す組織である」と定義・宣言することです。(つまり、Googleにとっては利益や製品開発と同じレベルの目標であると定義・宣言することです。) つまり、信念・理念の問題になります。と言っても、男性と女性は身体構造が異なっていますので会社として適切なサポートは必要でしょう(当然、コストが発生します)。その目標に共感できる人が入社してくださいと宣言するアプローチです。
ただし、どちらのアプローチを取ったとしてもGoogle社員やステークホルダーが「その結果に共感できるかどうか」は分かりません。 人間は歯車ではないため、合理的な意志決定・行動に慣れているGoogle社員ですら納得できないかもしれないのです。
組織の文化や価値観は合理的な議論と平行して感情的な納得感・安心感が強く影響します。
議論では「勝ち負け」「正誤」を明確化することが目標となりやすいのですが、それとは別の話し合いプロセスも職場(組織)を良くしていくためには必要です。天動説を信じる人に地動説を信じてもらうのは大仕事です。
そのアプローチについては、今後改めて記述したいと考えています。
うつみ まさき
コーポレート・コーチ