会社・組織の改善:袋小路から抜ける(「ウチはどうせダメ」と諦めない)
コーポレート・コーチとして組織やプロジェクトの改善活動に関わると、関係する職場の方々から「ウチの部門では改善はムリ」「どうせ上手く行かないでしょう」と言う声を耳にすることは珍しくありません。 特に、過去に改善活動で失敗した経験がある組織・職場ではその傾向が強いものです。 多くの問題を抱えているとの自覚のある職場でも「今度こそ職場を良くするぞ!」と言う声は想像以上に少ないものです。
その背景には、過去の失敗体験からベテランや中堅の中核メンバーに被害者意識を持つ方が多いことがあるでしょう。
これは歴史ある名門企業のある部門での改善活動をコーポレート・コーチとしてご支援した際のお話です。
その組織の組織長秋山さん(仮名)は部門外から「パラシュート部隊」のようにやって来た方でした。コスト的にも、業務品質的にも多くの問題を抱えた部門でしたので、秋山さんは着任当初から「どうしてもその部門を良くしなければならない」と決心していました。 部門は顧客からの信頼を確実に失いつつあったからです。 秋山さんは部門の中で有能な業務リーダーとして評価されている倉田さん(仮名)を改善活動のリーダーに選出しました。倉田さんは業務の細部まで把握しており、また部門メンバーの個性も良く理解していたのです。また倉田さんは過去に部門の改善活動に加わったこともあったので、部門の問題点も良く把握していました。
その部門の長い歴史があり、今までも何回か職場の改善活動を実施していましたが全て失敗に終わっていました。 有力な顧客との関係を維持していましたので業務メンバーは仕事がなくなってしまうという危機感は全くありません。 日々の業務はとても忙しいのです。不満はあっても昔から続けている自分の仕事の仕方を変えることには強い抵抗感があります。 仕事の仕方を変えることは、自分自身が否定されているような気がするのです。 顧客に迷惑をかけていることは分かっていても、「この料金で仕事を請け負っているのだから、仕方がない」と割り切っている人が多かったのです。
秋山さんは自己流の改善活動では成功しないと考え、部門の教育費を使い倉田さんを社外の改善活動教室に参加させたり、上手な会議運営セミナー(ファシリテーションセミナー)に参加させたりしました。
秋山さんと倉田さんは何回も話し合いを重ね、改善活動の計画を作りました。また、秋山さんは部門メンバー全員を集めて「これから職場を良くしていきましょう」と思いを発表したのです。 当初、改善活動は順調に進んでいるように見えましたが、少しずつ形骸化・手段の目的化が進み改善活動は停滞してしまいました。
そのようなタイミングで私はこの部門に関わりました。そして、すぐに秋山さんと倉田さんから個別にお話を伺いました。 倉田さんとお話をして気がついたことは、「職場を改善すること(良くすること)を諦めている」ということです。 過去の失敗体験も忘れることができません。
改善活動教室で学んだ方法を使い、会議の仕方も変え、倉田さんは「自分にできることは全部やっているのに、職場の人たちはアタマが悪いから協力してくれない」「自分ばかりがムダにことに時間を使うなんてひどい話だ」と考えるようになったのです。
まさに、被害者意識そのものです。
ただ、倉田さんのような考えに陥る人は珍しくありません。
改善活動に限らず会社での仕事の仕方を(大きく)変えようとすると、その推進者たちの中に似たような心境になる方がいらっしゃるのは普通のことです。
会社・組織は不条理なものです。 過去に成功体験がある職場は容易に「自分たちのやり方」を変えることができません。自分たちのやり方が「成功の方程式」のように思えてしまうのです。現実には多くの綻びがあったとしても、そこを見なかったふりをするのです(意識・無意識は別にして)。
では、倉田さんはどうすれば良いのでしょうか? 方法論を変え、行動や態度を変えても、抵抗勢力には太刀打ちできないのでしょうか?
そのような時にはまず先入観を持たず、客観的に自分や相手(抵抗勢力)は「何を知っていて・何を知らないか」を理解することが大切です。 「知らないこと」の中には、「誤解していること」も含まれます。私たちは、相手のアタマの中身(考え)を知ることができません。見える現象から推測することしかできないのです。
自分にも見えないことがあり、相手にも見えないことがあります。
だからこそ、お互いに何を知っていて・何を知らないのかを理解することは非常に大切なことです。 たとえ話となりますが、自分の奥さんが妊娠したときにはじめて街中で多くの妊婦さんが歩いていることに気がつく男性がいます。 ご両親が体調を崩し、車椅子を利用するときになってはじめて車椅子を利用されている方がどれほど多く、また公共施設でバリアフリーが進んでいないかを認知する方は珍しくありません。 誤解をなくしていくことが正しい行いの第一歩です。先入観なく、冷静に全体を見回すことではじめて職場で何が起きているのかが分かります。
今回の案件、秋山さんの部門では倉田さんのことを「上司にゴマをすっている」と思った人たちがいました。媚びへつらっているように見えたのです。 明らかに誤解なのですが、一度誤解をすると全ての出来事が歪曲され、誤解を強化するように見えてしまうことがあります(認知的不協和)。 だからこそ、倉田さんが何を言っても抵抗勢力の人たちは心を開いて話を聞いてくれなかったのです。 倉田さんにとってはあまりにも意外で、心外な事実でした。この誤解を解くことで、職場は大きく変わって行くことができました(改善活動が成功しました)。
私たちは自分たちの信念にとって都合の悪いものを見ることがなかなかできません。だからこそ、意見の違う人たちと話し合い、新しい見解を見つけ、改善・変革をする必要があります。 そうしなければ気がつかないうちに組織も、意識(マインド)も停滞し、腐敗します。環境について行くことができなくなってしまいます。
逆に、意識を変えることで新しい答え(ソリューション)を見つけることも可能になります【個人や組織の変革、イノベーション】。 天才でなくとも、環境に働きかけ、変える可能性は十分にあります。
「ウチはどうせダメ」と諦める必要は全くありません。
うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
https://innovation-labo.com/