下町ボブスレーPJ頓挫から知るプロジェクトマネジメント・マインド
【マネジメント、マインドセット、イノベーション、コーチング】
政府の支援も受けた「下町ボブスレー」プロジェクトについて2月5日からニュースが流れています。
東京都大田区の町工場を中心に国産そりを製作する「下町ボブスレー」
のプロジェクト推進委員会は5日、 そりを無償提供していたジャマイカ
代表チームから、9日開幕の平昌五輪では使用しない旨の連絡を受けた
と発表した。
(時事通信 https://www.jiji.com/jc/pyeongchang2018?s=news&k=2018020500774&)
なぜ、期待のプロジェクトに問題が発生したのでしょうか?
ものづくりの技術的な問題なのでしょうか?
この問題は、「開催中のオリンピック」、「日本の技術力」、「政治との関わり」など多くの話題で注目を集めています。
報道によって、
・日本のボブスレーチームにも、そりは採用されていない
・大会直前(1月)の機体検査で2回も不合格となった
・ジャマイカチームはラトビア製のそりを使ったところ好成績を上げた
などが報道されています。
下町ボブスレープロジェクトから
「6800万円の損害賠償をする」
との声も上がり、プロジェクトの細貝GMからは
「悲しい。約束したことがこんなに簡単にひっくり返されるのか」
と語ったと報道されています。
下町ボブスレープロジェクトから「(性能・品質が不十分であるのに)損害賠償」と言うフレーズが出たことで、国内からも批判的な声が多くなりました。
「下町ボブスレーのそり」には深刻な性能・品質や安全性の問題があったとも報道されており、ジャマイカチームを非難するだけでは問題の本質が見えません。
(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/223226/1
https://www.excite.co.jp/News/it_g/20180208/Buzzap_47349.html?_p=all& )
なお、ジャマイカチームがラトビア製のそりを使うきっかけとなった2017年12月のワールドカップですが、多くの日本での報道は
ストライキによる輸送トラブル
でそりが現地に届かなかったと報じています。
しかし、そりが国際競技規格をクリアできなかったためドイツのボブスレークラブからラトビア製のそりをレンタルせざるを得なかったとの報道もあります。
(https://www.excite.co.jp/News/it_g/20180208/Buzzap_47349.html?_p=all&)
報道を見る限りですが町工場のみなさんをはじめとして日本のものづくりチームには、「潜在的にそりの部品を作る技術力」はあったと思われます。
ただ、ジャマイカオリンピックチーム【顧客】に「そりと言う最終製品」を提供できるまでに組織(チーム)として成熟出来なかったのではないでしょうか。
部品を作ることができるだけでは、最終的な成果(製品)を作り上げることができません。
プロ野球やプロサッカーで、一流選手を集めたチームが必ずしも優勝できるとは限らないことを私たちは知っています。
ものづくりの組織改善モデルとして知られるCMMI(Capability Maturity Model Integration)を見ると、以下のような記述があります
・顧客を満足させるために、何を作れば良いかを明確化しましょう
(要件管理、要件開発)
・顧客とどのような関係を築き、どのような
プロジェクト計画を立案・実行するか決めましょう
(プロジェクト計画、監視と制御、統合的プロジェクト管理)
・品質管理をしましょう
(品質保証、検証、妥当性)
・リスクをモニタリングし、マネジメントしましょう
(リスク管理)
・問題が起こった際の、物事を決め方は明確化しましょう
(決定分析と解決)
などが述べられています。
これらはCMMIの中では「(高度ではなく)基本的な要求事項」です。
具体的に何を実施するかはプロジェクト・組織(チーム)ごとに考えるべきものです。
しかし、明らかに下町ボブスレープロジェクトはこれらの実践に不備があったとようです。
下町ボブスレープロジェクトとジャマイカチームでは、目指している目標に食い違いが生じていたのでしょう。
だからこそ、オリンピック直前のそり(製品)が不合格になっても下町ボブスレープロジェクトは「五輪には間に合う」と考え、ジャマイカチームはそのように考えなかったのです。
「一緒に戦う仲間」と言う感覚は大切ですが、その感情のためにリーダーが現実を見なくなることは残念です
実は、CMMIなどを持ち出す必要もなく関係者間でゴールを一致させ、コミュニケーションを取ることは「当たり前」のように思いがちです。
しかし、多くの失敗プロジェクトではそれが出来ずに失敗しています。
現実には、「当たり前」が当たり前に出来ないのです。
特にものづくりやシステム開発の失敗例では、技術的な難しさよりはゴールの不一致やコミュニケーション不足で頓挫する方が多いのです。
(公式の失敗報告書には違う理由が書かれているかもしれませんが)
難しいプロジェクトであればあるほど、リーダーやキーパーソンは「自分の世界に閉じこもりやすい」のです。
だからこそ大局的に全体を見通し、思考の偏りを是正する取り組みは重要です。
ストレスで暴走しないために、「安心の場」を作り、目標達成のために話し合う仲間が必要です。
「安心の場と仲間」の存在が、思考と発想の歪曲を修正します。
継続的にそのような環境を整備することで、人間の思考(マインド)は成長します。
思考(マインド)が成長した時にテクノロジーやメソドロジーの進化は劇的に効果を発揮します。
マインドとテクノロジーの進化で大きな成功を手に入れることが出来ます。
片翼飛行を続けるプロジェクトがますます増加し、ますます被害を大きくしています。
しかし、多くの組織ではその現実から目を背け、失敗の犯人捜しに奔走します。
片翼飛行の限界で多くの努力が水泡に帰すことがない工夫、それがこれからのイノベーションを実現することでしょう。
うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
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