リーダーシップコミュニケーション:合理的な意志決定・行動のために
多くの会社・組織をコーポレート・コーチ/コンサルタントとして支援する中で、リーダーたちから似たような悩みを相談されることが多いことに気がつきました。
「会議や交渉で意志決定をしようとすると、合理的にものごとが決められない」「合理的に行動が実行されない」と言うのです。ある意味で、感情的・感覚的に決定されてしまうと言うことなのでしょう。
例えば、ある会社のプロジェクト・リーダー田中さん(仮名)は自分たちが検討を重ねた計画を社長の「その場の思いつき」で突然否定されてしまい、苦労していました。計画が変更されても予算や人の手当がされる訳でもなく、納期が再検討される訳でもありません。 プロジェクトが問題を起こしたり、失敗しても田中さんたちは叱責されたりするばかりで、その原因を作った社長は全く手助けをしてくれないのです。 ある会社のリーダー織田さん(仮名)は顧客との関係に悩んでいました。顧客からは、常に無理難題を押しつけてしまいます。合理的に考えるならば、「ムリなものはムリ」と断るべきです。ただ、管理職として顧客との関係を拗らしたくありません。と言っても、職場の若手・中堅メンバーの不満が溜まっていて、このままでは良いと思えません。織田さんは解決策を見つけることが出来ずに悩んでいます。 ある会社の管理職である野田さん(仮名)は営業部門と技術部門の対立で苦労していました。営業部門も技術部門も本当は同じ目的(会社の収益)のために仕事をしているはずなのに、自分たちの都合を優先するのです。受注するまでは営業部門の仕事、受注した後は技術部門の仕事とお互いに線引き(担当領域)を勝手に作って仕事をするので、結果的に大きな問題を発生させることが多くなります。問題が起こると自分たちの正当性を主張するばかりで、問題の再発防止策も表面的になり、同じような問題をまた発生させています。顧客との信頼関係も維持出来なくなりつつありました。
会社・組織の仕事は多くの人たちが関わって成り立っています。
自分の見えている範囲は限られているため、偏見や先入観、誤解が生まれやすいことを優秀なリーダーたちは「頭では分かっています」(理屈としては理解しています)。しかし、自分が当事者となった時には自分の都合や価値観ばかりを優先して意志決定しようとすることを減らすことができません。
そのような意味で、会社・組織は不条理な存在です。「全体最適な活動」をするためには工夫し、努力し、現在の習慣(やり方)を新しいものに変える必要があります。
そこで会社の業務プロセスを可視化し、全体としてどのように動いているかを関係者が理解できる仕組みを作ることは大変に重要です。「業務プロセスの改善」と呼ばれる活動をすることが大切です(システム全体を理解するためです)。 それは大切ですが、それだけでは問題は解決するとは限りません。
人の意志決定や行動を改善する際は、身につけている習慣を変える必要があります。 習慣は無意識レベルのプログラムです。無意識レベルに価値観・優先順位がプログラムされていると、本音は簡単に顕在化しません。話し合いをしても、「本当の理由」は表面化しないことが多いのです。 最初に表面化する時には「感情」「気分」として表面化します。結果的に、理屈は後から感情を正当化させるために作られることさえあるのです。 表面的な対立点・問題点だけに対処していてもきりがありません。
気がつくと、「ウチの会社では何をやってもダメ」と言う諦めが職場に蔓延してしまいます。その雰囲気を変えるためには大変な努力が必要になってしまいます。
リーダー、特に大きな組織・プロジェクトのリーダーはこのような不条理な人間集団をマネジメントすることが仕事です。
そのために最初にすることは、「関心を持って観察する」ことです。多くのリーダーは観察不足です。自分の色眼鏡(偏見、先入観)を通して観察するために、現実が歪曲されるのです。そのような状態では、関係者間で共通のゴールを見つけることができません。
自分の持っている「色眼鏡」を外し、関係者(相手)をよく観察することでシステム全体がどのように動いているかを知ることができます。 相手が何を望んでいるのか(なぜそれを望んでいるのか)を推理すること(仮説を立てること)がリーダーに求められるコミュニケーションスタイルです。
合理的な意志決定はそのような環境が整った先に実現されます。
お互いの本音が語られるならば、最新の精度が高い情報をリーダーは手にすることができます。定量的なデータと定性的なデータの両方が存在することで合理的な判断が実現されます。 正しいデータがあるからこその合理的な意志決定・行動です。
そのためにもその会社・組織に「信頼の場」を作ることができるかどうかは常に意識しなくてはなりません。成果報酬やコミュニケーションのテクニックだけで中長期の信頼関係を作ることはできません。信頼出来ない相手には本音を語ることはありません。
優れたリーダーは、まずは「場」を作るためには何をするべきかを常に考えています。
うつみ まさき
コーポレート・コーチ
(株)イノベーション・ラボラトリ
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